中野信子さんの
「毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ」
を紹介します。
気になった内容、私のメモ
「毒親」という言葉
スーザン・フォワードの著書「
」の発表によって「毒親」という言葉が広まった。
少子化の一因が毒親にある可能性に言及していた
悪い家庭環境で育つと結婚にポジティブな考えを持てなくなる。
親が子供の結婚相手に首を突っ込む、理想像を押し付ける、自分の子を妬み結婚を妨害する。
親の束縛が強い子や、家族関係を優先する”良い子"ほど、未婚になるのではないかとのこと。
ルイーズ・ブルジョワ
フランス出身のアーティスト。
家族への直接の復讐の代わりにアート作品を作ることで憂さ晴らしをしていた。
毒親育ちの認知的不協和
認知1:毒親からひどい扱いを受けて辛い
認知2:血のつながった家族である
自分の矛盾・不協和を解消するため、認知1を認知3、認知4に変更する。
認知3:実は親は自分を愛していた、ひどい扱いも実は子を思っての行動だった
認知4:親には感謝しなくてはならない、親の言うことを聞くいい子でなくてはいけない
このような認知の変更で自分の本当の気持ちが隠され、第三者からは表面上は問題がないように見える。
そして問題の発見が遅れ、悲劇が起きる。
認知的不協和は社畜をコントロールするのにも有効
内的作業モデル
他者との関係性をどのように取るか、行動のひな形のこと。
乳幼児期の経験で形成される。
ほとんどの場合、乳幼児期に形成されたひな形で人は一生を過ごす。
乳幼児期の傷
人の脳は物理的に危害を加えられるなどの強いストレスを受けると十分に発達しないことがある。
成熟した後の脳でも強いストレスで海馬が萎縮するが、成長段階の脳では、脳の背外側前頭前皮質が損傷したかのような傷になってしまう。
特に脳の線条体への影響は大きい。
線条体の働きが弱くなると、無気力、無関心、学習意欲の低下、うつ病、他者への不信、冷静な思考ができない、感情的になりやすい、多動、コミュニケーション障害、自傷、犯罪行動、依存症を起こしやすくなる。
暴力で子供の脳が萎縮
2009年のアメリカの研究で、体罰を受けた若者のグループは、そうでないグループに比べ、前頭葉の中前頭回や前帯状皮質の容積が平均14~19%減少していた。
2012年の論文によると、子供時代に家庭内暴力・DVを見た経験があると、視覚野の容積が平均6%減少していた。
1998年~2005年と2006年に共にアメリカで行われた研究で、体罰を受けて育った子供は攻撃性が高くなり、暴力行動を起こしやすいことが分かった。
「脳が委縮する」…しつけのための体罰でも悪影響しかない事実 | ゴールドオンライン
オキシトシンのデメリット
「愛情ホルモン」と呼ばれるオキシトシンは愛や絆を深める効果がある。
一方で、絆で結ばれた集団の外に対しては偏見や差別感情を抱くようになる。
自分が所属する集団に好意的になるのを内集団バイアス
それ以外の集団には差別的になるのを外集団バイアス
という。
具体例
長男に対して:「うちの子が一番かわいい」:内集団バイアス
次男に対して:「お前なんてうちの子じゃない!」:外集団バイアス
結束力が強まる分、排他的になってしまう!?『内集団バイアス』 - 株式会社SBSマーケティング
「家族は素晴らしい」がポリコレ
家族の絆は素晴らしい、家族は仲良くするのが当然であり、それが正義である。
これがポリコレ的に正しい表現である。
だから家族が不仲であったり、家族が憎いと言うと批判の的になる。
このような正しさが生きづらさにつながる。
これもポリコレの被害者といえる。
結婚に対して、著者の疑念
著者は、婚活している人の一部は、結婚を大学受験や就職活動のようにとらえているのではないかと疑問を呈している。
自分の社会的地位を上げる、見栄えを良くする、鬱憤を晴らす、といった手段として結婚をとらえているのではないかと主張している。
子づくりに対して、著者の疑念
著者は、子作りに対しても結婚と同様の疑問を呈している。
本当に子どもが欲しくて子どもを産む人と言うのは、一体どのくらいの割合でいるものなのでしょうか。
(137頁)
親が本当に望んで産んだ子供ではない。
それを子供が知ってしまうと「なぜ自分は生きているの?」という問題に突き当たってしまう。
ハリー・ハーロウのモンスターマザー、代理母実験
「針金の母」と「布の母」
サルの赤ちゃんを母親から引き離し、人工の母親「針金の母」「布の母」を与える。
すると、サルの赤ちゃんは「布の母」に抱き着いたが、結局、精神を病んで大人になる前にほとんど死んでしまった。
「モンスターマザー」
「布の母」に、赤ちゃんが近づくと振動する、バネ板で弾き返す、圧縮空気を噴出する、針を突き出して赤ちゃんを刺す仕掛けをした「モンスターマザー」をサルの赤ちゃんに与えた。
すると、サルの赤ちゃんは、どんな目に遭っても「モンスターマザー」に抱き着こうとした。
「レイプマシン」
前述の実験で育った雌のサルを「レイプマシン」という装置で固定し、雄と交尾させた。
実験で育ったサルは社会性を持たず、雌は雄と交尾すらできなかったからこの方法が取られた。
「レイプマシン」によって生まれたサルの赤ちゃんに対して、母ザルは授乳をしないばかりか、赤ちゃんを踏みつけたり、頭を噛み潰したりした。
サルの依存性に関するハーロウの研究
カウンセラーに相談する
対人関係がうまくいかず自分での解決は難しい時は、プロであるカウンセラーを頼る。
これが本書の最期に書かれていた、つまり著者にとっての結論であろう。
家族はオワコン
著者がこのように明言したわけではありませんが、内容を私なりに要約すると家族は時代遅れという身も蓋もない結論になります。
急速に変化する現代において従来の文化が廃れるのは必然であり、家族文化も例外ではない、ということです。
感想:毒親問題の当事者がこの本を読んで救われるだろうか
著者の論がイマイチ煮え切っていないと思いました。
良く言えば、だれも傷付けない配慮をしている
悪く言えば、風呂敷を広げた割に核心が弱く、期待させられた読者が置いてけぼり
という印象です。
問題に直面した時の解決法は誰かが教えてくれるものではない
自分で考えて解決するものだ
これが、この本を読んで感じたこと、私の解釈です。
その他雑感
- 親子間の社会通念のギャップによってもたらされる不幸
- この問題は感情を優先させがちだからこそ、理性的、機械的に考える
- AIに育児させたほうがマシなんじゃないか
- 著者は高学歴で著書多数の成功者であるから「人の苦しみも知らない上級国民が、偉そうなことを言いやがって!」という認知バイアスに批判されそうである
- 一方で、当事者の「私、こんなに辛いんです、苦しいです、家族を憎んでます」という恨みつらみでは、読む方は気分が悪くなってしまうので、この本の内容でよかったのかもしれない
あとがき
この問題について、今回で自分のすべきことがはっきりしました。
実務的、具体的な情報の発信です。